2011年12月7日水曜日

バブル獄中記

バブル獄中記
長田庄一著
幻冬社


一代で東京相和銀行を築き上げた長田庄一氏の110日間東京拘置所滞在記。



長田庄一氏は、尋常高等小学校を卒業後15歳で単身上京し、
戦後貸金業から一代で東京相和銀行を築き上げた。
2000年に見せかけ増資の疑いで逮捕、東京拘置所に拘留され、
110日間にわたって拘置所生活を送った。
この本は、その拘置所内部・生活・取り調べなどを綴った獄中記である。

東京拘置所。
右斜め前に立つマンションに住む友達を訪ねたことがあった。
上階にある友達の部屋から拘置所の全貌を見ることができた。
拘置所の裏に職員宿舎があって、当時小娘だった私は、
凶悪犯と同じ敷地内にいるなんて職員の家族たちは夜ぐっすり眠れるのかな?と疑問に思っていた。

娑婆暮らしの長い、というか塀の外しか知らない私は、
そんな近くて遠い存在の拘置所に興味を持ちこの本を読んでみた。

女性検事とのやりとりが興味をひく。立場上対立している二人なので、どちらも譲れない。
違う場所で出会っていたら、二人はいいコンビになれたのかもと想像する。
“小娘”検事に対して「イライラして生理かな?」
などとつぶやくのもこの年代の立志伝中の人物らしく面白い。

でも、やはり戦争を体験してきた人は精神的にも肉体的にも強いと改めて思う。
食事、気候、睡眠など、戦時中より拘置所の方がましだというのは、重たい言葉だった。
麦飯は苦手だったようだが。
心を強く持たないとおかしくなってしまうような環境の中、77,8歳という年齢で
たくましく過ごすというのは心底凄いと思う。
「自由が制限されているこんなところでは日常生活のあらゆる面に、昔物資不足の時代に考え出した生活の知恵、その過ごし方が役に立つ。」
便利さに慣れてしまった現代人にはなかなか難しいことに思える。

蚊やゴキブリとの闘いもまた面白く書いてあって、
数多の波を乗り越えてきた御仁も虫にはてこずるかと、くすっとさせられた。

また、長田氏は、バブル崩壊直前に大口不良融資先からの緊急回収を命じたという。
そのおかげでその時は経営危機を回避できた。
札束が狂喜乱舞していた時に、自ら引くというのはなかなかできるものではない。
やはり一時代を築いた人は臭覚が鋭いのか、培ってきた経験の賜物か。


どうしても気になってしかたのないものが、拘置所に置いてあるという
「灰色をした安物の粉歯磨き」。
そんなものが今でもあるのか、とても気になる。
直接歯ブラシにつけるのか、それとも振りかけるタイプなのか。
枝葉末節にこだわってしまう私であった。

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