2012年6月18日月曜日

舟を編む

舟を編む
三浦しをん著
光文社

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ。」「海を渡るにふさわしい舟を編む」 本屋大賞にふさわしい三浦しをんさんの傑作。


出版社に勤務している馬締(まじめ)は、辞書編集部に異動になった。
今まで「変わったやつ」と言われていたが、辞書の世界に没頭しながら邁進していく。
「大渡海」という辞書の完成を目指して---。
この話題作をやっと読了することができた。
読みやすい文章で、笑いあり(恋文は笑った!)涙ありの、本屋大賞受賞にふさわしい本だなぁと思う。

個性的な登場人物たちが魅力的である。
変わった人と見られるのかもしれないが、一つの事に情熱を捧げている姿にとても惹かれる。
辞書に携わる人々は、「言葉」という絆を得て、全力で大海に挑むのである。

そして、辞書に関するウンチク話も楽しい。

    一見しただけでは無機質な言葉の羅列だが、
    すべて誰かが考えに考え抜いて書いたものなのだ。
    何という根気。
    なんという言葉の執念。

辞書の編集とはなんと大変な作業だと改めて感心する。たくさんの人々の協力、地道な作業があってこそ出版までこぎつける辞書。しかし、私も最近はPCやケータイで意味調べを済ましてしまい、なかなか辞書を手に取ることがない。 この本の中に、「めれん」という聞きなれない言葉が出てきたので、せっかくだから辞書を引っ張り出して調べてみた。
紙の辞書は、調べた言葉以外の言葉もたくさん目に入り、思考が広がっていく。
そして、たくさんの辞書にまつわる思い出もあることに気がつく。

小学生の時、初めて大人の辞書「岩波」を手に取った時に、あまりの紙の薄さにびっくりしたこと。
高校生の頃、「これおじいちゃんが使ってた辞書なんだ。ボロボロで言葉が古くて恥ずかしい。」と言う友人が、羨ましかったこと。
海外で、マイナーな言語の辞書(英語で解説)を買い、「これじゃあ、辞書の役目果たせてないじゃん」と思うような個所が多々あり、日本人の細やかな気遣いを誇りに感じたこと。
忘れていた想い出を引っ張り出してくれた本だった。

「新解さん」以外ほとんど主役に躍り出ることのない「辞書」にスポットライトを当て、編纂の大変さを世間に知らしめた功績は大きいのではないかと思う。

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