2012年10月23日火曜日

あのころのデパート

あのころのデパート
長野まゆみ著
新潮社

庶民が手の届く範囲でささやかな贅沢と非日常を味わうことができた場所、デパート。「あのころ」が懐かしい方も、「あのころ」を知らない方も。



「日曜日に家族揃ってデパートへ行き、大食堂でお子様ランチを食べる」
懐かしそうにそんな思い出を語る方を見聞きするが、残念ながら私にはそういう思い出がない。
大家族でもあり、土日も関係ない家庭だったので、一家揃って出掛ける事などなかった。
また、徒歩圏内にいくつかデパートがあったため、必要なものを買ったらすぐに帰宅していたのだ。
その頃にも大食堂はあったのだろうか?

それでもたった一度だけ、電車に乗って行った都心のデパートで鉛筆を買ってもらったことは、嬉しくて今でも覚えている。
なんの変哲もないありふれたものだったのだろうが。

行動範囲が広がって、初めて日本橋の三越や高島屋、銀座和光に行った時はその重厚さに圧倒され、緊張していることがバレないようにドキドキしていた。
あの頃は若かったな。

誰でも持っているデパートの思い出・・・
本書は、母娘共にデパート勤務の経験がある著者の、デパートにまつわる思い出や裏話がギュッとつまった一冊である。

簡単な歴史から始まって、手品のような見事なラッピング、店員さんが持つ透明バックの秘密、かつていた書家や筆耕さん、店内アナウンス、お辞儀、休憩時間、一日の仕事の流れなど、働いていた人でないとわからない裏情報が面白い。

・かつてはハンカチの類までほとんどガラスケースに展示されていた……それじゃあ気軽に手に取ることができないではないか!
・自社の包装紙は看板を貶すことになるので決して捨ててはいけない……そういえば、おばあちゃんが包装紙を大切にとっていたなぁ。
・「お手提げ袋にお入れしましょうか」など「お」や「ご」をむやみやたらにつけたデパート用語……今でもあまり変わりないかも。
・セロテープが高級品で、毎朝うどん粉を練ってホルマリンを入れて自家製糊を作っていた……怖っ!

そういった話が続々と出てきて、知らない世界をのぞき見する楽しさが味わえ、デパートの思い出に浸れる、そんな本だった。

著者の長野さんは1959年生まれというから、同年代で都心に住んでいた方なら尚更懐かしいのではないだろうか。
しかし、年代が違っても土地勘がなくても、へぇ〜ボタンを連打したくなるような話がいっぱいの一冊だった。


※著者は自分にも他人にも厳しい方なのか、厳しいことをたくさん書かれていてズボラな私は反省しまくりだった。
もう少し表現が柔らかいといいのになと思った。

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