木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
増田俊也著
新潮社
霊長類最強の男は木村政彦だっ!!
そして1月にして既に2013年ベスト本はこの本に決定だっ!
ボディビルダーのような体で腕を組んでいる表紙の男、それが木村政彦(当時18歳)である。
「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」と讃えられた不世出の柔道家。
「鬼の木村」と怖れられた男。
負けたら切腹する覚悟で毎回試合に臨んだ男。
昭和29年全国民が注視するなか、力道山との闘いで不本意な負け方をした男。
それ以降「負けた男」として延々と生き続けなければならなかった男。
本書はそんな木村政彦( Wikipedia)の足跡を追った傑作ドキュメントである。
大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞受賞作。
木村政彦の名前すらも知らずに読み始めたのだが、すぐに夢中になった。
木村は貧しい暮らしの中、幼少期から親の手伝いで足腰を鍛え、柔道を始めると次第に頭角を現していく。
今も格闘技界で使われている「腕がらみ」は、木村が中学生の時に開発したという。
才能も実力もありながら、絶対に勝つために人の「三倍努力」する。
乱取り9時間、その後ウェイトトレーニング、移動はうさぎ跳び・・・睡眠時間は3時間もなかったという人間離れした生活に度肝を抜かれた。
大木相手に「突き」「打ち込み」と血だらけになりながら、「星飛雄馬かっ!」と思うような過酷な練習をこなしていく。
それを星一徹に言われたわけでもなく、自主的にやっていたのだから驚く。
全てを犠牲にし、勝つため、もっと強くなるために猛練習し、圧倒的な強さを誇る伝説の柔道家となった。
しかし、全盛期を戦争に奪われその後は不遇が続いた。
「空手バカ一代」などの劇画、過剰なまでに美化された格闘家たちの評伝、捏造された伝説・・・
著者は、そんな虚実入り乱れた格闘技史を丹念に紐解き、資料をあたり取材を積み重ね、歴史や組織に翻弄された木村の足跡を追っていく。
著者の講道館に対する批判は、私には正しいのか判断できない。
著者は、木村を崇拝するあまり偏った見方をしているのかもしれない。
それを差し引いても間違いなく傑作だ。
木村政彦研究、近代格闘技史としても一級だ。
木村の執念と気迫そして悔しさが、時空を越えてこちらに迫ってくるような本だった。
牛島と木村、木村と岩釣の心苦しいまでの師弟愛、地獄の特訓、報われない悔しさに、女の身ながら何度も男泣きに泣いた。
本でこんなに泣いたのは「フランダースの犬」以来だ。
700ページ2段組の分厚さだが、怯まずに読んで欲しい。
そこには深い感動が待っているから。
※ブラジルの英雄エリオ・グレイシーと闘った伝説の試合(YouTube )
この時木村は現役引退から10年たちまともな練習をしないで臨んだにもかかわらず、圧倒的な強さで勝利した。
※TV特番「君は木村政彦を知っているか」もYouTubeで見ることができる。
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