2013年11月26日火曜日

飛田の子: 遊郭の街に働く女たちの人生

杉坂圭介著
徳間書店 

大阪の遊郭・飛田新地で働く女たちの1年。


通りにずらりと並ぶ狭い間口の玄関先で、ピンクや紫の怪しげな蛍光灯に照らされながら、お姉さんがにっこり微笑んでいる。
曳き手のおばさんたちが、通りを歩く客たちに「お兄さん!」とひっきりなしに声を掛けている。
そんな光景が毎日のように繰り広げられている飛田新地のシステムは、どう考えてもこじつけだと思う。
店は「料亭」であり、個室でお茶やビールを飲んでいるうちに偶然にもホステスさんとお客さんが「恋愛」に陥る。
そして個室の中で「遊ぶ」のである。
料金は建前上、ビールやお菓子の代金で、11,000円/15分~41,000円/60分。
おばさんの取り分の1000円を引いた残りを、店とお姉さんが折半する。

流れは、お菓子と飲み物とおしぼりを渡し、少し言葉を交わし、トイレで洗浄する。
その後、部屋に戻りサービスする。
時間はおばさんにお金を渡すところからスタートするので、帰り支度を考慮すると15分コースの場合、実質7分程度なのだという。
慌ただしいことこの上ないが、客は女の子の顔を確かめてから気軽に遊べ、お姉さんにとってはソープのように長時間みっちりとサービスする必要がないので、気楽なシステムらしい。

なぜ取り締まりの対象にならないのか疑問に思うのだが、15年前のピーク時に比べて売上が1/10に落ち込んでいるものの、今でも160軒近くの料亭が営業しているのだという。

本書は、飛田新地での料亭経営の経験を綴った『~遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白~ 飛田で生きる』 の著者が、飛田新地で働く女たちの1年を追ったものである。

子供ができないことが原因で離婚し、助産師になることを夢見るカナ。
独身時代に飛田で働き、その後結婚・出産した後に、空いている時間に働きたいと飛田に戻ってきたナオ。
某大手商社に勤めながら、お金が欲しいから土日だけ働きたいと応募してきたアユ。
歯科技工士の専門学校に通いながら、学費や生活費を稼ぎたいと彼氏がいながら働き始めたメグ。
夏休みの間だけ働きたいと東京からやってきた大学生のリナ。

そんな彼女たちが、日に何本もこなしながら、客を奪い奪われ、喧嘩し、成長し、少しずつ壊れていく様子が綴られていく。
本数が減り稼げなくなってくる、お客さんのちょっとした一言に傷つく、曳き手おばさんの嫌味、一緒に働いている同僚との軋轢・・・
この仕事を長く続けていくと、体だけでなく精神の均衡を崩していく人が多いのだと著者は言う。
入るのは簡単だが出るのは難しいこの世界。
短時間で効率よく稼げるからといって安易に踏み入れない方がよいと思うのだが。

一応本書は「ドキュメント」となっているが、デリケートな問題を含むため都合の悪いことは書かない書けないということに加えて、読みやすい文体、出来すぎた話などから、「飛田新地に詳しくなる小説」と思って読んだ方がいいのかもしれない。

※新たに知った言葉
「一見倒し(いちげんたおし)」・・・新規客からお金をもらえばもう関係ないと、それまでの笑顔を引っ込め、あまりサービスをしないこと。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。